2月27日にディナーコンサートを終えて3月2日に東京に戻った後、4月26日まで宏樹庵に帰って来ることができなかった。
長い留守中に竹の秋が始まり、宏樹庵に入って来る小径には竹の葉がたくさん積もって歩くとふわふわするくらいだった。露天風呂がある2階のテラスには楠の枝葉がうんざりするほど溜まっていた。

陽子が出産のため、3月初めから東京小平の家に帰ってきていた。
3月11日大地震が起こり、更に原発の事故で、陽子のダンナは早く山口に避難しろと言ってきたが、出産直前で移動するのも危険なので思いとどまらせ、予定通り3月18日に小平の病院で女の子を出産。ほぼ3000グラムの元気な子だった。「絢香」と命名。
節電のため、病院のロビーや廊下は暗く、室温も低く設定されていて陽子は寒い寒いと言っていた。水道水に放射性物質が検出され、宇部に住む秀太郎にミネラルウォーターをたくさん送ってもらった。他の方達も心配してそれぞれにミネラルウォーターを送ってくださったので水には困らなかった。
お蔭様でおっぱいは充分に出るようで、次第に絢香は丸々としてきた。
晴香は4月19日で満2歳になり、小平でお誕生会をした。まだ小さいので赤ちゃんが生まれてどんな反応を示すか少々不安だったが、どんどん言葉を覚える時期になって、
「あやちゃん、ちいさくてかわいい~っ!」
などと、早くもお姉さんぶりを発揮している。絢香が泣くと見に行って、
「そんなに泣かないで。」
と言ってくれる。

4月24日に東京での演奏会が終わり、5月の連休中岩国で開催されるミュージックキャンプの準備のため26日には岩国に帰らなければならなかった。
震災などが起こらなければみんなを連れて帰るつもりはなかったのだが、まだ余震が続いていたので思い切って生後一月の絢香も一緒にみんなで新幹線に乗って岩国に帰った。

広い宏樹庵の中を晴香は朝起きてから夜寝るまで、ドッドッドッと、ずっと走っていた。歩いて移動することを知らないようにいつも走っていた。
4月中はまだ居なかった蛙や蟹が5月になってどこからか姿を現わした。
悪いことにムカデまで出現してヒヤッとした。
田植えの季節を迎えた。これからはいろいろな虫や小動物たちが来ることだろう。
5月10日にみんなで東京に戻った。
8月にまたみんなは宏樹庵に来る。絢香もその時はいろいろな物が見えるようになっていることだろう。



絢香を抱っこする晴香



絢香一月



小道には竹の葉が積もっていた