石井啓一郎ヴァイオリンリサイタル2017チラシ表(web用)

田植え前の田んぼに水が張られている。空と山が映る。
Fさんの玄関先には青々とした稲の苗が並んでいる。Fさんは稲の種からここまで育て、そしてこれを田んぼに植え付ける。苗の上を風がさわさわと渡っている。丈夫に育って日本一美味しいお米になれよ、と言っているようだ。

京都でのリサイタルが4日後に迫っている。6月1日京都、4日宇部、15日東京と続く。
東京でのリサイタルは今回で40回目。1977年6月8日ドイツから帰って来て初めてのリサイタルを東京文化会館小ホールで開いた。シューベルトの「デュオ」、バルトークの2番のソナタ、ベートーヴェンのソナタ7番「アレキサンダー」と意欲的な曲が並ぶ。2回目は翌年長女の出産のため1979年2月にずれ込み、プログラムはバッハのパルティータ2番に始まり、ヤナーチェクとフランクのソナタ、ラヴェルのツィガーヌ。それから毎年必ず開催するようになって今年で40回目。ずっと同じパートナーでリサイタルをこれだけ永く続けているのは他に例がないかもしれない。3人の子供達を育てながら、石井は石井で日本フィルの闘争を支えながら、そして解決後は運営委員長としてオーケストラはどうあるべきか夢を追い続けながら、どうしても自分自身の音楽力も磨きたくてリサイタルを続けた40年間。

5月27日は45回目の結婚記念日だった。大学を卒業してすぐ結婚したのだが、学生の頃から石井の伴奏をしていた。17歳の時の初めてのセックス。こんな事でこの世界中が成り立っているのかと感激し、また納得もした。鮮明に覚えている。それからちょうど50年。付き合い始めた初めの頃は、私の両親は結婚なんてとんでもないと猛反対していた。あまりに辛いので海に身を沈めようと九十九里浜へ一人で行った。しかし執拗に絡んでくる男がいて、逃げるように帰って来たという、今では笑い話のようなこともあった。
二人一緒にいてあまり喧嘩はした事がない。喧嘩の相手になってくれなかったという方が正しいかもしれない。音楽上の事で見解の相違があったことはある。しかし練習が煮詰まって来るとだんだん寄り添ってくるものだ。

東京のリサイタルから家に帰ってくる頃にはもう田植えも終わっているだろう。
青田の美しさを思い浮かべながらリサイタルに臨もう。

初リサイタル
初めてのリサイタルのチラシ、若かったなあ。