石井は不思議なほど結婚記念日を忘れない。

5月27日。
私はすっかり忘れていたのに、彼はこの日、庭の咲いたばかりのバラの花を切ってきて食卓に活けた。一緒に買い物に出たら、今日は少しご馳走にしようとお刺身をリクエストし、お酒もいつもより上等のを買った。
41回目の結婚記念日。
結婚した時は、いずれ小さくてもいいから南斜面の小川が流れるそばの家に住んで、自給自足で生活したいねと話していた。
今、宏樹庵がある。夢のように話していた家よりずいぶん大きいけれど、少し下の方に行けば小川はあるし、畑があるので食べるものは作れる。まだ全然自給自足には至っていないけれど、少しずつそれを目標に頑張ってみる。

結婚当初は全然思いつかなかったこともたくさんある。
第一に孫のこと。自分達が生きていくのに精一杯で、孫の存在まで考えが及ばなかった。それが、今では自分が生きていく中でかなり重要な存在になっている。
また、弟子達の子供もいる。
どんどん生まれる。この世の中、少子化と言うけれど、私達のまわりではどんどん生まれている。どんどん産んでみんな宏樹庵に来たら良い。ミュージックキャンプでも子供たちは楽しそうだった。

宏樹庵が人を呼ぶのだと思う。
この家は昔からそういう家だったのだ。

石井と結婚できて良かったと思う。
ずっと一緒に演奏してきて6月13日東京でのリサイタルは、ドイツから帰ってきてから数えるので36回目。いつまで続けるのだろうと彼は言う。彼の師匠、ミルシュタインは80歳まで現役だった。目標にしよう。

玉ねぎを400個収穫しながら、練習にも余念がない。



バラの花


1972年の結婚式の記念写真
当時石井は23歳になったばかり