1953年日本に来る飛行機がアルプス山中に墜落してティボーは亡くなった。
ある人の説によると、いつも一緒に演奏していたピアニストはティボーに来日の折は飛行機を使わないでと言ったそうだ。1949年には若き天才ヴァイオリニスト、ジャネット・ヌブーが飛行機の墜落事故で亡くなっている。しかし、来日の日程が詰まっているのでティボーは忠告にもかかわらず飛行機に乗った・・・

73歳のティボーの演奏会を心待ちにしていた人は多かった。これが最後、とも思っていただろう。
宇部での演奏会は10月1日渡辺翁記念会館にて開催される予定で遠く岡山や熊本からもチケットを求めて来るお客さんがいた。しかし___

これを65年ぶりに再現する演奏会を、との宇部好楽協会の企画に恐れ多いとは思ったが乗った。

本当は10月1日だったのだが今年は1日は平日なので前日の9月30日に、渡辺翁記念会館ではなく宿泊先の俵田邸にて当時のプログラムそのままを演奏することになった。
台風が直撃しそうな天気予報だった。毎日天気予報ばかり見ていた。前日になってかなり四国の南を通る進路になって山口県でも西の方はあまり影響はないような感じだった。前の日に宇部に入った。雨は大したことない。翌朝になっても。これから雨は強くなると言う。お昼過ぎてから少し風が強くなってきた。でも台風の西側だから大丈夫と思っていた。しかし山口県の鉄道は全線運転見合わせ。2時開演。53人の申し込みだったが30人余りの人しか来ていない。タクシーで来る予定だった人がタクシーが呼んでも来てくれないと連絡があった。もう少し待ちますかと事務局の人が言いに来る。でも10分待ってもこれ以上来ないみたいで、じゃあ始めましょうか---

今回のプログラムはティボーの組んだプログラムで、私たちが好きなように組んだものではなかったので弾いたことがない曲も何曲かあった。ティボーはブラームスやフランクやベートーヴェンのソナタを並べるプログラムが好きで、コンチェルトを入れる時には小品を入れると対談集で述べていた。まさにそういうプログラムで、私たちがリサイタルでは弾いたことがないモーツァルトのコンチェルトが入っていた。練習には手こずったが、最終的にはそれをソナタのように弾こうということになって本番はまずまず成功したと思う。好楽協会のT氏も絶妙だったと感激していた。これから普通のリサイタルでも取り入れてもいいかもしれないと石井も終わった後、言っていた。
プログラム最後のフランクのソナタは涙が出たとの感想を幾人の人から聞いた。最後の音が消えた時、ブラボーの大きな声が上がった。

お客さんにとっても演奏者にとっても良い企画だったかもしれない。
少し成長したような気がした。

ティボー提琴独奏会

2018.9.30