9月9日午後6時半から宇部の渡辺翁記念会館において「石井啓一郎が奏でる珠玉のヴァイオリン名曲集」と題された演奏会が開催された。
これは今年市制90周年を迎えた宇部市が企画した、日本フィルハーモニー交響楽団宇部公演(宇部興産主催)に向けてのいくつかのクラシックの演奏会の一環で、好楽協会の玉井保生氏のお話しも交えながらの演奏会だった。
6月頃から本格的に企画について市とやり取りをしていたが、8月に入るまではほとんど公にされなかったのでお客さんが集まるのだろうかと心配していた。8月になって1000枚の整理券が出て、最終的には1400枚が配られたそうだ。しかし、無料の整理券なので当日始まってみるまでは気がかりだった。記念会館は客席1300余り。幕を開けてみるとなんと1000人ほどのお客さんが入っていた。
ブラームスのヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番を始め、主にウィニアフスキーやクライスラーなどヴァイオリニストが書いた名曲の数々を披露。お客さんの反応は非常に良かった。

この渡辺翁記念会館は、宇部で生まれ、ひたすら郷土のためにつくした宇部興産初代の社長、渡辺祐策氏の死後、彼の業績を讃えて造られたもので、村野藤吾氏の設計による。昭和12年に完成し、戦争中も壊されず残ったので、戦後すぐ、まだ日本には音楽ホールが無かった時代で、海外から来た名演奏家たち、メニューイン、コルトー、シゲティなど歴史に残る人たちがここで演奏し、市民に感動を与えた。
その蔭には宇部興産副社長、俵田寛夫氏の功績も大きい。
彼は宇部好楽協会をつくり、海外の著名な演奏家を招聘することに力をそそいだ。立派なホールがあるので演奏家たちは来てくれるのだが、当時はホテルがなく、彼は私財を投じて来日した演奏家たちの宿泊に自宅を開放した。
市民の給料はまだ本当に低い時代だったが、他に楽しみも少なかったこともあって演奏会には家族で出かけていく習慣がついた。石井啓一郎もそんな中で育ったのだった。

平成17年には国の重要文化財に指定されている。
正面玄関外観の重厚な趣き、またロビー内の丸い柱は本物の大理石、床も市松模様のテラゾータイル。こんなに立派なものは現在ではもう造ることはできないだろう。ホールの残響時間も丁度良く、宇部市民は本当に誇りにしていい。
すでに74年の歳月を経ているので維持管理は大変かもしれないが、是非長く現役のホールとして残したい。


宇部の演奏会
演奏会のポスター

渡辺翁記念会館
渡辺翁記念会館