朝起きたら庭は一面うっすらと雪におおわれていた。
雨なら音でわかるのだが、全く予想していなかった。
雪が降る時は静かだ。降る音が静かなだけではなく、他の音も吸収してしまう程静かだ。

音絶へしこの音が雪降る音か  有働亨

連日のように山口県全域に強風波浪注意報、積雪注意報が出た。高速道路は閉鎖され、空港に直結しているリムジンバスも運休になっている。
瀬戸内海沿岸の岩国では積もる程雪の降ることはあまりない。でも東京のあの抜けるような青空が終日続く日でも、こちらでは雪が時折舞ったりする。山の方だけがすっかり雪雲におおわれ、町の方は日が明るくさしているのに、ちらちらと細かい雪が飛んでくる。
庭の池も凍っていた。金魚たちは池の底深くひそんで姿を見せない。買い物に行ったら、スーパーの隣りの蓮田が厚い氷におおわれていた。
あまり家の外に出る気分になれなくて、暖炉を焚いた部屋でめらめらと揺れる炎を見ながら練習ばかりしていた。


池が凍った

氷が張った池


蓮田は厚い氷に覆われた

厚い氷におおわれた蓮田



4日くらいそんな日が続いた後、今朝はやっと普通くらいの寒さになって外へ出た。
ちょっと歩いてみた。
お寺の横を降りて、ほうれん草などがちぢこまって、でもほとんど枯色の風景の中、そこだけが青々としている畑を横目に見て過ぎる。林ではにぎやかに小鳥たちが鳴いて、家を出てから何となく頭の中に流れていたシューマンの曲をかき消した。夏の間はあんなに美しかった蓮田はすべて枯れて、長い茎が折れいくつも頭を水の中にたれて雑然としていた。小川の脇にさしかかる。クレソンが密生しているが、表面は寒さのため黒くなって、冷たい水に耐えていた。湧き水の所に来るとそれはチョロチョロと細いながらも何百年の水を絶やさず流れ落としていた。
その上の家のそばを登った。あじさいが小さく刈り込まれて、陽の光をいっぱい浴びていた。その枝先に、もう葉が芽生えているのを見つけた。
今寒くても、春は間違いなくやって来る。
宏樹庵の庭に戻ってみると、夏椿の枝先にも芽が銀色に光っていた。梅も小さな蕾をたくさんつけていた。私のいない間、スタッフの一人が自治会館に通じる小径の入り口に苗木というには大きすぎるくらいの柿の木を植えてくれていた。あまり土が良くなかったようで左右から倒れないように紐で支えてあった。どんな実がなるのだろうか。その柿の木にも堅い芽がちゃんとついていた。

近寄れば枯木も春を含みをり さちこ



梅の蕾2