2016年06月

今、夜の8時を少しまわった頃。雨がしとしとと降っている。宏樹庵の池のカエルが一匹、大きな声でグエーッグエーッグエーッと鳴いている。このカエルは何のために鳴いているのだろう。友達を呼んでいるのか。と、思いがけなくもう一匹クルルルと加わる。そしてすぐ黙った。



宏樹庵は市道から50m以上も竹やぶの間を入った所にある。市道もこの上には何軒かしか家がなく、行き止まりになっているので通る車は住民か、あるいは配達か何か住民に用事がある人のみ。この時間には全く車の音はしない。



はるか遠く下の方に山陽本線が通っている。1時間に2本の往復、それに貨物列車の音がここまで聞こえる。



昼間は鳥の声がよく聞こえる。鶯が何羽もいて、最近ホトトギスの声が時々聞こえる。



ふと、カエルが鳴き止む。雨の音のみが聞こえる。さっきより雨足が強くなったようだ。ラジオではこのあたり、これから大雨になると言っていた。風はなく、竹やぶはしんとしている。またカエルが鳴き始めた。ずっと鳴いている。グエーッグエーッグエーッ・・・



 



さあて、練習を始めよう。



この自然の音に逆らわないような音で弾けるように。



日本フィルは1975年から学校の夏休み期間中に「親子コンサート」を東京近郊何か所かで開催している。



柔らかな感性を持つ子供たちにこそ音楽の持つ力の素晴らしさを届けたいという思いからだ。42年間で延べ600公演に120万人が来場していると言う。一応4歳からという規定はあるが、うちの孫どもは3歳から楽しんでいる。最近は「親子」ではなくて「おじいちゃんおばあちゃんと孫」というケースも多くなっているようだ。そのためではないだろうが、タイトルも「親子コンサート」ではなく「夏休みコンサート」になった。



演奏会は3部構成で、1部で本格的なクラシックのオーケストラ曲を聴かせ、2部ではバレエなど(今年はプロコフィエフのシンデレラ)が入って見た目にも楽しい。3部は子供たちが知っている歌をオーケストラをバックにみんなで歌う。



今、子供たちだけでなく、大人も一人でゲームをしたり、パソコン上でやり取りをしたり、或はユーチューブなどで一人で音楽を聴いたりすることが多くなっている。生身の人間を避けているように、挨拶も顔を見てしないと言う。



演奏会というのは、生身の演奏者が渾身の力で演奏し、それを聴く方も受け身ではなく、自分自身の身体の全てを使って聴いて、そこに感動が生まれる。そして、演奏会に来ている人達みんなでそれを共有する。



夏休みコンサートに来る人達は音楽通の人ではないと思う。でも、足を運んで聴いてみたら演奏会終了後の気持ちは何か楽しくなっているはず。家族で聴いた人たちは家庭に帰ってからもその話題で話すことになろう。



 



今年8月9日(火)に初めて京都で夏休みコンサートが開催される。



永年日本フィルも関西での公演を考えてはいたが、予算の面で実現できなかった。今年、京都に本社を置くローム株式会社の冠のもと、新しく完成したロームシアター京都オープニング記念事業の一環としてやっと開催にこぎつけた。



関西にもいくつかのオーケストラはあるのだが、どこもまだ夏休みコンサート的な企画は手がけていない。実力のある日本フィルの夏休みコンサートが、今回限りではなく、関西の子供たちの中にも是非浸透してほしい。



 



6月19日私達はそのために京都に出かけた。



集まったのは日本フィル事務局の人と私達のリサイタルでお世話になっている人達。



それぞれの人が何枚チラシをどこに配って、どうやって宣伝し、チケットの販売はどうやってすればいいか、知恵を出し合った。



さあ、頑張らなくては。



6月4日京都 7日東京でのリサイタルが無事終了した。
病気がちだったガリアーノ、京都のリサイタルの直前にとうとう魂柱が倒れた。急遽宇部の秀太郎の所へ駆け込んで診てもらった。新しい魂柱に替えて、立てる場所も石井が弾きながら調整。その結果は、石井が魂柱が倒れてむしろ良かった。そうでなければあの調整は出来なかったのだから。と喜んだ程だった。
京都のホールは良く響く。客席で私が聴く限り、シンフォニア岩国の時のような惨めな感じではなかった。
それから3日。フラジオが出にくかったり、何だか無理して音を出している…昔のような豊潤な音が出ないと感じる。
コルンゴルトの小品に始まってシューベルトのソナチネ、クライスラーの小品4曲とリサイタルにしては聴きやすい曲が前半に並ぶ。後半はウェーベルンの研ぎ澄まされた音のみで構築された4つの小品とシューベルトの幻想曲。音楽の美しさは出せたと思った。
いつもの店で打ち上げ。こっそりA氏に聞いた。ヴァイオリンの音はどうだったかと。充分楽しめたけど、以前の音を知っているので今一つと言う。秀太郎の師匠も聴きに来ていた。10日、ガリアーノを持って彼の所へ行った。調整1時間余り、魂柱の長さを少し削って立てる位置も変えた。そのお陰で、嬉しい事にガリアーノの音が戻った!
秀太郎の師匠は素晴らしい!

それと今回アンコールにはシューベルトの「楽興の時」を考えていた。
元はピアノの曲で簡単な曲なのだが、クライスラーが編曲して洒落た曲になっている。これがクセ物だった。素敵な曲なのにものすごく難しいと、石井は京都に発つ3日の最後の最後までその曲を練習していた。京都では何とか弾いたが、東京ではもう弾かないと言って別の曲にした。
「楽興の時 Moment musical 」幻の曲となった。いつの日にか聴いてもらえるかもしれない。待っていて欲しい。

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