あたりの空気には蝉の声が充満していた。
そんな中で、ひっそりとうばゆりが花を開いた。

先月見た時のあのムクムクとした勢いはもはや失せ、背丈もそれほど伸びないで、たった一つの花をつけ、それが私の帰りを待っていたかのように、宏樹庵に帰って2日目の朝、開いた。静かに咲いた。
このたびは3日間の滞在だったので、最後を見届けることができなかったが、あと何日くらい咲いているのだろうか。そばのもう一つの株の蕾も咲きそうだ。
葉はそんなに痛んでいない。しかし、命の終わりを知っているかのような姿だ。
よくぞ私の帰りを待っていてくれたものだ!

今年は梅雨が平年よりずいぶんと早く明け、7月初めから暑い日が続いた。それが20日頃からちょっと一段落して少ししのぎ易くなった。
私が帰ってきた翌日の朝は、早朝からひどい雷雨で、岩国市内でも落雷による火災や、土砂崩れで山陽道通行止め、山陽本線も午前中不通になったほどだった。
でも雨のお陰で朝晩は涼しい。

父が亡くなって1年経ったのでお墓参りに行った。
対向車が来ないようにと祈りながら、のろのろと山道を走る。
幸い誰にも会わなかった。まわりの林の蝉時雨をあびながら、草取りをし、水をかけた。
母も元気で、個展などもやりたいという気力もまだ残っていることを報告して帰った。

   墓参り蝉の声ほか音は無し



宏樹庵の入り口に咲いたうばゆり